長谷川新多郎の備忘録。最近は写真中心。


by phasegawa
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2005年 11月 21日 ( 1 )

『切腹』

映画を観るにあたって、誰かの勧めであるとか、雑誌やネットのレビューをきっかけにしてであったとしたら、別に珍しくもあるまい。ところが、今回は日経の「私の履歴書」がきっかけである。今月連載中の仲代達矢がとても面白いのだ。主観であるが、非常に文章が上手い。上手い役者という理想に向けてもがき続けてきたのがよくわかる。先立たれた妻への想いを吐露する潔さもいい。俳優の自伝に魅かれて、その俳優が自ら代表作という作品を観てみたくなったのだ。
これまでそれほど多くの作品を観て来た訳ではなく、仲代と言えば、「影武者」、「乱」、「二百三高地」などで演じられた、鬼気迫るギラギラした目を剥き出す狂人役であったり、無口で憔悴、超然とした役柄の印象が強かったのだが、近頃観た「阿修羅のごとく」での浮気する父親役には好感を感じていた。憎めない、向田邦子ワールドの貴重な一員としてはまっていると思った。たぶん眼光の迫力が狂人役をうってつけにさせるのだろうが、この人は一見不器用そうでいて本当は芸域の広い役者なんじゃないかと思う。
同じ黒澤映画でもカラーになる以前に出演した「用心棒」や「椿三十郎」の方がいい。監督から「蛇のようにやれ」と指示されたというニヒルな敵役の仲代は、不敵な笑みや凄みを利かせた睨みによって存在感を出し、三船敏郎のいかにも男っぽい魅力と対照的なクールな渋さが効果的なエンターテイメントの構図を作り出していた。
切腹」であるが、小林正樹監督による1962年の作品。黒澤映画よりも派手さがない代わりに、仲代の独白によって展開するストーリーの台詞がなかなかによい。斬り合いのシーンが通常の時代劇に比べるとチャチな気がしたが、もとより素浪人仲代と家老三國連太郎の問答の絡み合いがこの映画の真骨頂である。英語圏のスマートな法廷劇にも似ているのではないか。「武士の面目とは所詮上辺を飾るだけに過ぎぬのではござりませぬか」と朗々と繰り返す仲代の問いかけは、侍が途絶えた現代においても色褪せない。武士とは、誇りとはどんなものか?を考えるきっかけとして手っ取り早い、よく出来た日本映画があることを何故知らなかったのか。長編だが、同じ小林・仲代コンビによる「人間の条件」が今は気になっている。
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by phasegawa | 2005-11-21 23:48 | review