長谷川新多郎の備忘録。最近は写真中心。


by phasegawa
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2005年 07月 22日 ( 1 )

『シリウスの道』

あまり小説を読む方ではないと思うのだが、藤原伊織は好きで、『テロリストのパラソル』、『ひまわりの祝祭』、『てのひらの闇』に続き、最新作を読む。やはり面白かった。本書の特徴は、まず広告業界の内側を描いた企業小説であること。なかなかイメージできなかった、オリエンとか競合の実態とか、大きなヤマとなるプレゼンの場面、そうした場で発言する、広告代理店の「営業」と「内勤」の人々。内勤とは更に、クリエイティブディレクターと社外の制作プロダクション、マーケティング局、PR局、イベント局といった専門部署に分かれ、そうしたプロフェッショナル達が18億円の仕事を受注するために15人も一緒になってチームを組むとき、どんな議論になるのか、電通で長く働いてきた著者ならではのリアル感だろう。それを感じさせるのは、相変わらずの会話の上手さでもある。言葉の巧みないい人ばかりが登場し過ぎているのが非現実的と言えなくもないが、普通のサラリーマン達の物語のはずが、なんともカッコよい硬派なエンターテイメントになっている。複線となるのは、他の作品同様、過去の記憶をたどる心の揺らぎである。25年ぶりに再会を果たした、主要な登場人物達は、離れ離れに違う人生を歩んだが、13歳の時に刻み込まれた甘酸っぱい記憶、苦い記憶をそれぞれに切なく引きずり続けていた。その痛々しさに痺れる。私の13歳も、思えば幸せの絶頂期だったかも知れない。57歳の著者は、今春、食道癌で5年後の生存確率が20%であることを公表した。長生きして多くの作品を残して欲しい。
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by phasegawa | 2005-07-22 06:52 | review